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2007年2月 6日 (火)

西行

Saigyou 白洲正子の『西行』『明恵上人』を読んだところへ、NHKBSで「白洲正子が愛した日本人:美の旅人、西行と明恵」をやっていた。

白洲正子は韋駄天お正(風の如くに疾走する印度の神様)の渾名があるが、あらゆる教養と鋭い審美眼を備えた知識人であり、日本人の美と心を再発見した人であると同時に、その型破りな行動でも有名である。
阿川佐和子『オドオドの頃を過ぎても』によれば、初めは怖いとか遠慮するとかしないで飛び込んでしまう。そのためいじめられて3時間以上泣き通したり、胃潰瘍になって3度も吐血したり、暫く文章を書けなくなるほど傷ついたりしている。
つまらない骨董でもつまらないことを教えてくれる、どんなつまらない人でも必ずいいところはある。いい人間に会えたらいいところを盗む、盗みの名人であるという言葉を残している。

Bara_1 さて、西行である。
ねがはくは花のしたにて春死なむ そのきさらぎの望月の頃       
その歌のとおりに亡くなったという驚きの人である。

西行法師というと妻子を捨てて出家し、全国へ仏教の修行の旅で一生を終えた人と思っていた。
ところがこの本で実はイメージと全然違う人とわかった。
出家し吉野にこもったのは待賢門院への思慕から開放されるためであった。孤独を愛しても人恋しい思いに耐えかねている。そして桜への異常な愛、その歌も多い。
ひとり居の寂しさを愛した。彼はまた一生数寄の人であった。育ちのよさも影響している。何でも興味を持ち、何でも自分の眼で見なければ承知しなかったことが彼の一生を貫いているようだ。
また能の「江口」や歌舞伎の「時雨西行」の人でもある。江口の里の和歌に巧みな遊女との歌のやり取りが素晴らしい。
西行は決して熱心に仏教の修行に励んだ人ではなかったのである。宮廷人や数寄者や武士との交友になくなるまで励んだ。
中世にこのような人が出たということはいろいろな意味で日本の方向を決めたかもしれない、重要な人と位置づけて良いのかもしれないと。

「三夕の歌」
西行法師
心なき身にもあはれは知られけり 鴫立つ沢の秋の夕暮れ

寂蓮法師
寂しさはその色としもなかりけり 槇立つ山の秋の夕暮れ

藤原定家朝臣
見わたせば花も紅葉もなかりけり 浦の苫屋の秋の夕暮れ

どれもいいけれども、私個人は西行のが好きである。この本に選ばれた西行の歌は本当にうまいと思う。すっかりファンになった。
いつか吉野の西行庵や大磯の鴫立庵に行ってみたい。

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コメント

西行法師は高校の教科書で習った程度しか知りませんが、いろんな人から研究されるほどの魅力と実力を持った人だったそうで、是非ともいつか読んで見たいと思いました。

私も「夕暮れ」の歌の中では、西行のが好きです。NHKBSの番組は知りませんでした。残念。

昨夜はTVを付けたら、中国の少女たちが踊る「千手観音」に引き込まれ、そのあと「サウンドオブミュージック」を見ていました。

白州正子さんは以前から関心がありますが、小説とは違って、なかなかこういった本はすらすらとは読めない(涙)。読みこなすのに必要な基礎が足り無いからだと思います。

投稿: ねむウサギ | 2007年2月 6日 (火) 17:22

> 中世にこのような人が出たということはいろいろな意味で日本の方向を決めたかもしれない・・・

意外でした。
所謂"偉い"人かと思っていたので、
意外でした。

僕も、いけるかもしれない!
お調子者です。(笑)

投稿: Stanesby | 2007年2月 6日 (火) 19:46

★ねむウサギさま

ありがとうございます。
中に出てくる歌がとてもいいですよ。
読みこなすのに必要な基礎なら私なんかひどいものです。歌につられて引き込まれるのではないでしょうか。
西行だって人間だったというのがよくわかります。
BSはハイビジョンです。今日も2時から再放送があります。

サウンド・オブ・ミュージック、アメリカに行ってからのですね。事実は厳しいものだったのですね。

投稿: tona | 2007年2月 7日 (水) 08:28

★Stanesbyさま

ありがとうございます。
そうですよ。Stanesbyさんもいける!
今は2足の草鞋でしょう。
ブログでもう何冊も本を書かれたのですし、ご自身の持たれるものを出し尽くされてください。
私の友人が多分Stanesbyさんくらいの年で芸大の別科のチェロを卒業しました。家庭を持ちながらだから大変だったと思います。
室内楽のリサイタルでも堂々としていました。

投稿: tona | 2007年2月 7日 (水) 08:38

大分以前に「世阿弥」を読みました。
花伝書はくりかえし読んでいるのですが、
能も知らず、エッセーとして読み下したばかりです。
こなれた文章にうかうかしていると、
肝心なことを落としてしまいそうです。
他の作品も読みたいと思います。

投稿: YUKI-arch | 2007年2月 7日 (水) 10:44

恥ずかしながら西行のこと(も!)、なぁ~んにも知りません。
唯一知っているのが
「願はくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月のころ」
ということになりそうです。(滝汗;)
うちは朝日新聞をとっているのですが、しばらく前から
新しく連載の始まった朝刊の小説「宿神」夢枕獏・著 が、
西行を主人公にしたものですね。今まだ出家前の佐藤義清が
登場していますが、興味を引かれて毎日読んでいたところでした。
tonaさんの今日の記事で興味がまたさらに膨らみましたから、
このままよく読み続けていこうと思います(^^)

投稿: ポージィ | 2007年2月 7日 (水) 11:21

桜の頃になりますと、西行の終焉の地である弘川寺に行き、西行が愛した山桜を観るのがたのしみです。

ここでは西行についての沢山の資料があり、旅の後をそれらの資料で辿ることも出来るのです。
西行が
ねがはくは花のしたにて春死なむ そのきさらぎの望月の頃 と、詠んだ「花」
ご覧下さい。
http://blog.goo.ne.jp/anikobe/e/e9c42d4fe24bffe4705f729e00a64bda

投稿: あにこべ | 2007年2月 7日 (水) 12:46

西行法師といえば偉い仏僧と思われますが、むしろ歌人としてのほうが有名。
出家の理由もこれまた変わってて面白い。
辞世の句にあるように、願わくは桜の頃、如月の釈迦と同じ頃に死にたい。その通り一日違いの二月十六日に亡くなっているのもこれまた不思議。

大磯の鴫立庵には行きました。3/25(日)に西行祭があるそうです。観光協会のホームページで見ました。

投稿: 夢閑人 | 2007年2月 7日 (水) 13:05

★YUKI=archさま

ありがとうございます。
『花伝書』教科書で習ったときとても内容が深いなあと感じていました。
それ以来1度も手にすることなく来ました。
私もそのうち読んで見ようかと思います。

白洲正子さんの能に関する本もご自身がなさっていたから読み甲斐があるようですね。
「江口」を観られたらなあと思っていますが。

投稿: tona | 2007年2月 7日 (水) 15:47

★ポージィさま

ありがとうございます。
うちも朝日新聞ですが、新聞小説をずっと読んでいなかったので、当然何が連載されているかも知らないでいました。
清盛と義清が出ているんですね。絵もカラーで。
47回目今からでも遅くないですね。
どうもありがとう。

私もこの2種しか西行の歌を知らないで、その一生も漠然としたことしか頭になくて、改めて興味が湧いたところなんですよ。

小説どうなるでしょう。楽しみです。

投稿: tona | 2007年2月 7日 (水) 15:55

★あにこべさま

素晴らしい西行にちなむ桜の写真をどうもありがとうございました。
吉野の山桜って他に類を見ない美しさですね。
以前行ったときはもう殆ど終わりかけでこの美しい景色を逃してしまいました。
終焉の地が弘川寺だったのですか。
たくさんの資料もあるとのこと、いろいろ教えていただきありがとうございました。
しっかり記録しておきます。行かれると一番いいのですが。

投稿: tona | 2007年2月 7日 (水) 16:02

★夢閑人さま

ありがとうございます。
ホントそうなんですね。
家人として有名というのがしっかり頭に入っていなくて、たくさんの歌に感動したところです。
夢閑人さんは西行のことに詳しいのですね。

鴫立庵にも行かれたのですね。
西行祭の日にちも調べていただいて感謝します。
その頃、もう電車に乗れたら行きたいです。
桜も今年は満開?かしら。

投稿: tona | 2007年2月 7日 (水) 16:09

BSハイビジョン見ました。教えて頂きありがとうございました。
興味あるお話がいっぱい聞けました。嬉しい。

近江や京都のあちこちにあるかくれ里、余呉や木之本周辺のは先日回った中にもあり、これからも少しずつ回って見たいと思いました。

投稿: ねむウサギ | 2007年2月 7日 (水) 16:14

★ねむウサギさま

さっき終わったところですね。
早速ご覧になって感想をまでありがとうございました。
私は紹介されたところ何処にも行ってなくて、ますます行きたいところが出来てしまいました。
車谷長吉さんは白洲さんからファンレターを戴いた方だそうで、私はこの方の本を初めて読んだのですが、すごい私小説でした。
水原紫苑さんも初めてですが、堂々とした方ですね。

投稿: tona | 2007年2月 7日 (水) 16:26

西行、私には桜と放浪の歌人というイメージです。

「ねがはくは花のしたにて春死なむ そのきさらぎの望月の頃」

爛漫と咲き誇る桜の花。しかしその美しさも移ろうもの、喪われるもの。
西行の歌にはいつも喪われていくものへの哀切な思いを感じます。そしてそうしたものたちに殉じたいという、激しい憧れをも・・・

「夕暮れはいづれの雲のなごりとてはなたちばなに風の吹くらむ」
藤原定家の歌です。
あまり有名ではないかもしれませんが、私の好きな歌。
空高く流れる雲に感じる風。
目の前のたちばなににも、ほのかな香りを運ぶ風が吹いている・・・
時空や空間を自在に行き来する風を感じます。定家もまた、風にそよいでいるたちばなの向こうに、他のものを見ていたに違いない・・・

西行と定家。
ほぼ同時代を生きた人ですね。
日本人の美意識の一つの頂点を極めたのがこの西行と定家だったのかもしれません。

投稿: aosta | 2007年2月12日 (月) 06:08

★aostaさま

コメントありがとうございました。
この本で西行の歌をたくさん読みました。
>西行の歌にはいつも喪われていくものへの哀切な思いを感じます・・・・
本当にどの歌にもこのように感じました。
思い描いていた人とは全然違っていて。

aostaさんのお好きな定家の歌、しっかり頭に留め置きたいと思います。
はなたちばなというと6月頃の花の咲いている頃のたちばなでしょうか。
写真でしか見た事がない(今絶滅危惧種だそうですが)白い花はどんなほのかな香りを持っていたのでしょう。

投稿: tona | 2007年2月12日 (月) 08:57

はなたちばな、tonaさんの仰るとおり、みかんの花の一種のようですね。

何か写真があるかな、と思って調べてみましたら、こんな文章を見つけました。

「古来から日本では、柑橘類は「常世=神様の世界」に咲きわい栄える『非時香果=ときじくのみ』と読み、生命力の源とも考えられていた・・・」

『非時香果=ときじくのみ』
なんて綺麗な響きなのでしょう。誰かの詩の中でこの「ときじくのみ」という言葉を読んだ記憶があるのですが、思い出せません。
もしご存知でしたら教えてください。

投稿: aosta | 2007年2月12日 (月) 10:17

★aostaさま

ときじくのみ=非時香果
初めて聞きました。
難しい漢字ですね。
本当に素敵な響きを持った言葉です。
日本語って素晴らしい。

残念ながらその詩を知りません。
aostaさんが見つけられたら教えてくださいね。
ときじくまで表わした万葉歌が一首ありました。
たちばなは花にも実にも見つれども
いや時じくになほし見が欲し

投稿: tona | 2007年2月12日 (月) 11:57

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