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2008年6月23日 (月)

ナイチンゲール伝

Hukusia 「ナイチンゲール伝」
   リットン・ストレイチー著

[イメージとかけ離れていたナイチンゲール、後半生ベッドの上から指令を出した人]

ナイチンゲールはロンドンの邸宅だけでなく、カントリーハウスを幾つも持ち、大陸に何度も旅行するような非常に裕福な家庭に生まれた。
裕福な幸せな結婚をして人生を送るはずの身分でありながら、芸術や文学に向けたいという誘惑にも抵抗し、若い男性への情熱をも足元に踏みにじり、家族の反対をも退けて、看護の仕事へ突き進んだ。
クリミア戦争が始まって、34歳のときにトルコ・イスタンブールの対岸のスクタリ(ウシュクダラ)の病院に、彼女個人の財産をたくさん持って、備品を買い込んで到着した。
そこはクリミア半島から運ばれてきた傷病兵が呻吟する換気装置がまったくない、悪臭も筆舌に尽くせぬ、この世の地獄の病院であった。国家に深く根ざした病弊である管理体制も崩壊した、災禍との戦いであり、医者達との戦いであり、そうした看護の仕事以外の管理に心を砕き、次第に病院の秩序を築き上げた人だった。
戦争が終わって帰ったきたときは、健康を損ない、何ともう死にかけていた。にもかかわらず、医者の長期間完全休養という助言を無視して、家族が泣いて頼んでも聞かず、何時死ぬか分からない状態なのに仕事をしたのだ。
その仕事とは陸軍軍医局の組織全体を何とかし、軍医局の仕官を教育し、病院運営の規則を改めねばというものだった。
絶望的な健康状態の中、勉強し、著述し、親しい人に全部指示してこき使い、90歳で亡くなるまで仕事をしたのであった。
この類稀な並外れた隔絶がナイチンゲールの生命力の源泉だったとは、誠に特異な人である。最後の方は病も収まったものの、小部屋のソファーに横たわって世界を支配する生命力溢れた人だったのである。
瀕死の兵隊のベッドを優しさの輝きで神聖なものにした「ランプの貴婦人」「クリミアの天使」「白衣の天使」としてのイメージの伝説のナイチンゲールは実は違っていたのだった。

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コメント

ナイチンゲール、今まで思っていたイメージの人とは、ずいぶん違ってました。

体調の悪い中、よくそこまでと思います。

90歳までがんばられたこと、感心するばかりです。

投稿: もみじママ | 2008年6月23日 (月) 23:40

★もみじママさま、ありがとうございます。

本当に仰るとおりなのです。
クリミア戦争後の人生が普通は一生看護師さんとして過ごしたかと思うのに、全然違ったものだったからです。
家族の願いを振り切って実行するというのもたいしたものですね。
死にそうな人が寝たままでよく90歳まで生きたということにも驚きました。

投稿: tona | 2008年6月24日 (火) 08:16

>陸軍軍医局の組織全体を何とかし、軍医局の仕官を教育し、病院運営の規則を改め

日本では未だに病院経営学が遅れていると思います。名医必ずしも名経営者ではないのに大きな病院の院長が白い巨塔の功なり名とげた先生の安住のポストになっているのではないか。
ナイチンゲールは一番大事なことをやったのですね。

投稿: saheizi-inokori | 2008年6月24日 (火) 11:08

 
ナイチンゲールといえば、-白衣の天使として、優しい慈愛に満ち、
傷病者達の力となると共に、看護者の待遇の改善にも努めた人-
というイメージでしたが、その程度のイメージなど吹っ飛んでしまうほど、
想像を絶する過酷な状況で、精力的に情熱的に戦い続けた人
だったのですね。
裕福で不自由ない家庭に生まれながら、いわば汚れ仕事で、
しかも劣悪な労働条件の現場へと彼女を駆り立て、病に伏せてすら
衰えることのなかった情熱の源は何だったのでしょう。
昔々、小学生の頃読んだきりの伝記より、はるかに偉大な人
だったのだと気付かせていただけたお話でした。

投稿: ポージィ | 2008年6月24日 (火) 11:22

tonaさん、こんにちは。
私も幼い頃に読んだ「ナイチンゲール」のイメージしかありませんでしたが…
彼女の肖像画を見ると意志の強さを感じます…ただ解らないのが…「神のお告げ」…
「マザーテレサ」もそうなのですが…「神」の存在が私たち日本人とは違うようです…
「生かされている」とは感じますが…私の中に宗教観は全くありません…(^^;

当時の社会環境の中では女性が自分の意志で何かをするというのは大変だったので…
「神のお告げ」…すなわち「神の意志」ということなのでしょうか(・・?)

「神のお告げ」があったにせよ自分に忠実に生きたということでは方向性は違いますが…
「ターシャ」の生き方に通じるものがあるのかも知れないと考えました…

素敵な女性の(敢えて女性(*^m^*))先駆者もたくさんいますね~♪希望が持てます(^-^)V

投稿: orangepeko | 2008年6月24日 (火) 12:35

★saheizi-inokoriさま、ありがとうございます。

150年の時が経って、振りかえった日本の現状はsaheiziさんがおっしゃるような状態なのですね。
そしてこの頃、あちこちで病院の閉鎖が続き、病院を探すのも大変になってきました。医者にかかろうとする人口が増える一方の高齢社会の一員として心配です。
ナイチンゲールは看護学以上の仕事を成し遂げた偉大な人だったのですね。

投稿: tona | 2008年6月24日 (火) 14:31

★ポージィさま、ありがとうございます。

トルコでの活躍が普通の看護師としての働きだけにとどまらなかったことだけでも、ずっと抱いてきたナイチンゲールの偉大さは変わりません。
ところが帰還してからの働きが病を押してのものだったので、驚きました。それも病室から、当時の偉い人を動かしていったから凄いものです。
どうして恵まれた家柄の人が正反対の環境に飛び出せたのか理解できません。ある時貧しい人を見ただけで意志が固まったなんて考えられません。
高齢者が増えて(私もその端くれですが)誰でも看護の心得が必要な世の中になりました。心の片隅にナイチンゲールの姿を焼き付けます。

投稿: tona | 2008年6月24日 (火) 14:45

★orangepekoさま、こんにちは。

ああ、「神のお告げ」「神の意志」ですね。
今と違って女性が自分がやろうと思っても出来なかった時代に、ナイチンゲールやマザー・テレサが成し遂げた仕事は神が下されたものとしてなら出来たのかもしれませんね。
勇気ある方たちです。
昔も今もアフリカなどの劣悪な地域で活躍しているシスターたちこそ、神に仕え、日々信仰のもと、仕事をされています。
信仰のない私にはとても考えることさえ出来ません。
そして意志の強いこと、ターシャも全く同じです。満足して、衰えた晩年でも幸福だと言い切って亡くなったことに羨望さえ覚えます。天国の花園を歩いている姿が目にちらつきます。
この3人の方、皆長い人生でした。「良く死ぬことは良く生きること」を実践された人でしたね。
ありがとうござました。

投稿: tona | 2008年6月24日 (火) 15:05

森鴎外を思い起こしました。

ナイチンゲールと「一緒にする」のはどうか
とも思いましたが、
陸軍軍医局の組織改革という点では
共通いたしますね。

投稿: YUKI-arch | 2008年6月25日 (水) 03:10

★YUKI-archさま

森鴎外とは!思いがけない人が登場です。
軍医さんまでしか知りませんでした。
鴎外の立場なら組織改革もスムーズになされたことでしょうね。
組織を改革することは今でも大変なことで、膨大なエネルギーを費やしますが、やって欲しいところがいっぱいです。
ありがとうございました。

投稿: tona | 2008年6月25日 (水) 08:29

ナイチンゲールは統計学者だった!-統計の人物と歴史の物語- (単行本)
丸山 健夫 (著)という本もあります。
この表現はややオーバーですが、彼女はクリミア戦争の現場体験以上に、帰国後統計資料を駆使して報告書を書き、衛生改革をやった人です。彼女の姪っ子は同じくナイチンゲールという名ですが、統計学者になりました。
また、彼女に影響を受けた高木兼寛(慈恵医大創設者)は、彼女の設計した病棟をモデルにして、慈恵の病棟を造りました。今、新橋の慈恵医大の裏にいくと、日本看護学校発祥の地 という碑があります。森鴎外は、高木と脚気の病因をめぐって争った人で、彼の誤認識が、日露戦争で多くの兵士を脚気で死亡させた話は有名です。作家としては一流ですが、軍医としては失政が多かった人ですね。

投稿: キムチ69 | 2008年6月29日 (日) 13:06

★キムチ69さま

ナイチンゲールについて統計学者の面から詳しく教えていただき有難うございました。
姪の方のことは初めてです。興味深いですね。
新橋の慈恵医大の病棟がこれまたナイチンゲールに関係していたとは、驚きました。
森鴎外のこの話以前読みました。
細菌学の北里柴三郎も被害に遭った一人ではありませんか。
それからなんとなく、愛読していた森鴎外を読む気がしなくなりました。文豪と考えればいいのですが、野口英世の浪費癖なんかと同じですね。偉人の陰の部分だけを意識して見てはいけないのかもしれません。
有難うございました。

投稿: tona | 2008年6月29日 (日) 14:03

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