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2010年3月11日 (木)

石川英輔著『泉光院江戸旅日記』

日記の書き手、泉光院は、1800年前後に生きた、山伏であり、お寺の住職でもあり、同時に日向の佐土原領主に仕える武士である。
著者石川氏がこの日記を解説しながら紹介している。

57歳の時、34歳のお供を一人連れて、渡し舟以外は乗り物にも乗らず、6年2ヶ月かけて鹿児島から秋田本庄まで歩き、距離は2万キロ。
足を踏み入れなかったのは青森・岩手と四国の香川・徳島・高知の5県のみ。
旅の目的は日本9峰と西国33か所など百か所をめぐり、あわせて全国の山伏の状況を視察することである。
地位の高い山伏ながら、殆どを托鉢の乞食修行の旅行で、おもらいの少ない街道すじでなく、農山村地帯の裏道の村落ばかりの旅である。
歴史で習ったり、読んだりした江戸時代の農村の暗い辛いイメージだが、1日も欠かさず書かれたこの日記からは全然違った農村が見えてくる。実に興味深い。

泉光院さんは超人的に頑健で、驚くべき健脚である。また知的水準がずば抜けて高い。
6年間に具合が悪くなったのは頭痛で寝込んだ1日だけである。1日に65kmも歩いても元気。山伏の修行で鍛えていたから足腰が抜群に強い。例えば京都伏見から比叡山に登り、そこから鞍馬へそして伏見に1日で帰ってくる。若いお供は疲れて時々病気になっていた。

武士として居合術、弓術に長じ、儒教・古典の知識・文章力・俳句・和歌・漢文・梵字の読み書きが出来、生け花・茶道など文武両道に通じていた。
山伏として紀州大峰山で峰入修行36度、奥駈修行13度して、加持祈祷は本業で占いも頼まれればした。

これらの特技をすべて生かして農村の人々に教え、語らって糧を得、宿を提供してもらい、食事の供応にあずかるのだが、原則は乞食であり、自分で炊事をしての旅である。
解説された日記はこれだけ読んでいたら読み通せない人も多いと思われるが、私は何しろ泉光院さんの異常なまでの知識欲と好奇心に惹かれて、今までにない面白い日記として生涯忘れられない本となった。

Photo

私の好きな籠の鳥は文鳥、野鳥ではツグミです。
ツグミは私の中では孤高の鳥としてイメージする鳥です。
いつも一人でじっと何か考えている姿は寂しげでもあるが、哲学する鳥です。
この日も10分以上もじっとこの姿勢で、まだ動かないツグミと別れました。

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コメント

面白そうですね。
宮本常一さんという民俗学者の本を読んだばかり。
彼も歩きに歩いています。

投稿: 佐平次 | 2010年3月11日 (木) 10:57

全く知らない方・知らない本ですが、また超人的鉄人がいらしたものですね。
文武両道に秀で、強靭な体と強い意志を持ち、それに社交にも
優れていたということですよね。
この方のおかげで、江戸時代の農民の暮らしもステレオタイプ的な
ものでない、具体的なありのままの姿を知ることができるのですね。
興味深いですが、私には読むのは難しそう。忠実な映像で再現してくれたものを
見てみたいなぁと思いました。

tonaさんが撮られたこのツグミ、10分以上も動かずにいたのですか?
そんな様子には会ったことがありません。じっとたたずむ姿は
哲学的に見えますね(^^)何について沈思黙考していたのやら。
 

投稿: ポージィ | 2010年3月11日 (木) 11:03

石川英輔著『泉光院江戸旅日記』
存じませんでした。

tonaさんの解説だけで読んだ気になってはいけないですね。

最近しっかりとした本と向き合っていません。
気力が落ちている??

体だけでなく心も鍛えないと老化が進むのでしょうね。

触発されて読んでみようかな。

投稿: もみじ | 2010年3月11日 (木) 13:26

★佐平次さま

凄い過酷な旅なのが伝わってきます。
しかし好奇心が上回って深刻さが伝わってこないほどです。
時代は違いますが、宮本常一さんも歩いたのですね。1冊だけ読みました。読み比べてみます。ありがとうございました。

投稿: tona | 2010年3月11日 (木) 14:24

★ポージィさま

こんなにたくさんのことを持ち合わせた人は珍しいです、だからこそ、病気もしないで、6年も托鉢と頼まれごとだけで旅行が続けられ、1度も野宿がなく、飢えで困ることもなかったのです。
全く凄い人がいたものです。
山賊がいるわけでもなく、日本は平和で安全、貧しくても人を助ける素晴らしい国民性であったことなど、いろいろなことがわかります。考えていた江戸時代とは違っています。

このツグミはかなり離れていて、人が周りにいなかったので、逃げることもなく安心して、一体何を考えていたのでしょう。私の方が待ち切れなくて先に退散でした。
ありがとうございました。

投稿: tona | 2010年3月11日 (木) 14:36

★もみじさま

私も内容の重い、あるいは長い本が読めなくなってきました。
映画ができるとそちらで済まして読んだ気になっています。
ジョイスの「ユリシーズ」やトルストイ「戦争と平和」、プルーストの「失われた時をもとめて」など内容が頭に入らないまま、とにかく最後まで読めればいい、なんていう読み方を若いころしていました。
時々気骨の折れる本を読んで鍛えないとですね。
ありがとうございました。

投稿: tona | 2010年3月11日 (木) 14:43

子供のころ、托鉢のお坊さんが来ていたのを思い出しました
家家の門口でお経を唱えているのが聞こえると、お金やお米を出していましたhappy01

投稿: OB神戸家 | 2010年3月13日 (土) 09:26

★OB神戸家、ありがとうございます。

神戸家さんは托鉢のお坊さんをご覧になったのですね。
私はないのです。
泉光院さんの時代も賑やかな所や日蓮宗などの所は托鉢が出来ないで、村ならどこも受け入れてくれたと書いてありました。
今はもう托鉢は成り立たないのでしょうか。

投稿: tona | 2010年3月13日 (土) 19:16

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