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2018年1月22日 (月)

『息子が殺人犯になった』 ス-・クレボルド著

『息子が殺人犯になった』ス-・クレボルド著 仁木めぐみ訳
コロンバイン高校銃乱射事件・加害生徒の母の告白

1999年4月20日コロンビア州デンバーのコロンバイン高校で、同校の生徒、エリック・ハリスとディラン・クレボルトが生徒12人と教師1人を殺し、24人を負傷させたあと自殺した史上最悪の学校銃乱射事件があった。それは未成年2人によるあまりに残虐な犯行だった。
アメリカのごく普通の家庭で育った兄弟。著者はディランの母として、妻として、女性として、教育関係者として優等生的人生を送ってきた人だ。
それがこの日に突然破壊され、絶望の淵に突き落とされ、殺人犯の家族としていきなり社会にさらされ、責められ、自身も息子を失い、価値観のすべてを壊された著者が、嘆き悲しんだ末、自分を取り戻し、世界の人に向けてすべてのことを発信する本を書いたのだ。著者紹介によると、事件直後から家族の生活の細部まで振り返り、原因を追究してきた。その過程で、精神衛生と暴力の関連性について理解を深めながら、現在は自殺を防止する活動に奔走しているというのである。

事件が起こって間もなく、職場に電話が入り、帰宅するも、警官とマスコミとヘリコプターがいっぱいで、家の中に入れてもらえず、ずっと夜まで外に立たされ、その後はとりあえずの品物だけの持ち出しが許され、ホテルへと思っても、野次馬とマスコミに晒されることで、行き場所がない。密かに夫の姉の家の地下室に数日かくまってもらうところから始まる。
最初何も知らされず、どうやら息子が犯人らしいということで、テレビを見ることも出来なくなってしまう。何も食べられず、眠れず、嵐のような、被害者や世間の人々の犯人の親に対する憎しみに対面して行かねばならない。
そんなに普段から家族の一員として格別悪い子ではなかったし、「私の育て方は間違っていなかった」と思い、とても大量殺人をする子に思えなかった。
しかし人々は言う「いい親なら、子どもがなにをしようとしているか、ちゃんとわかるはず」と。
著者が想像を絶する非難を浴び、喪失し、加害責任を引き受けていく過程が凄い。それでもわが子を否定しきれない葛藤が続く。結論は親の知らない面で、子どもは精神的に病み、自殺願望が高まっていて、友人のエリックの銃乱射に加担する残忍な方法で自殺するという、救われない自殺の仕方だった。
事件後すっかり体が弱ってしまったが、2か月後に職場に復帰するように親切な上司や同僚に言われ、ふらふらしながら、職務はまだ果たせないけれども、外に出て行ったことが凄い。
ストレスの胃腸炎で、トイレがすぐそばにない所では働けなかったという。
たくさんの裁判を起こされ、また莫大な弁護士費用で、やがて土地も家も失い、そして夫とだんだん思いが通わなくなって事件度10数年経ってから別の道を歩み始めたという。
約400頁にわたる克明な記録が事件から15年以上も経って上梓された。
毎日起こる事件で、同情できない犯人を見聞し、親が悪い、家庭が悪い、社会が悪いとそこだけに結論を持って行きがちだけれども、そんなものではないということもわかった、いささか気分が落ち込む内容でもあったが、著者は自殺願望の人を防止する活動をしているし、物凄い19年を送ってきたし、よくここまで生きて来られたなあと感嘆したのです。この人だけではない。世界にはこんな思いをしている人がたくさんいるのでしょう。状況によっていろいろ異なるも、1つの事件の内外両面からの克明な記録として私の心に深く焼きついた本でした。

今年も、ロウバイにたくさん出来た蕾をヒヨドリに全部食べられてしまいました。少し残っている万両よりは美味しいのですね。
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コメント

しばらく更新がなかったようなので心配しておりました。
お元気そうで何よりです。

加害者の親というのは辛い立場ですね。
ましてやこんな大事件。
かつて神戸の酒鬼薔薇事件が起きて、その犯人の親が本を書いた時、息子を持つ母としては気になって読んでみました。
しかしその本を読む限りでは
ごく普通の家、普通の息子、普通の親子関係しか見られませんでした。

投稿: zooey | 2018年1月22日 (月) 11:59

こんにちは
 
事件の加害者の親 という立場からの発信はあまりないように思います。
そういう意味でもこの方の著書は貴重という気がします。
想像するだにどんなにか苦しい日々だったかと思います。
こうした著書はまだ読んだことがないのですが、tonaさんの記事を
拝見しながら思ったことは、たとえ親と子であっても、
やはり一人一人の人間は別個の人格だということでした。
日本には親の顔が見てみたい という言い方がありますが、
むやみにそうやって責めるのは間違いですね。

投稿: ポージィ | 2018年1月22日 (月) 12:19

★zooeyさま

この1週間、風邪を引いて安静にしておりました。咳がひどくて本が読めなかったのです。
これはお正月に読んだ本でした。

加害者の普通の親は思ったより酷い状態に置かれるものだとわかりました。
酒鬼薔薇事件のを読まれたのですか。あのときはとても読む気になりませんでした。
クレボルドさんのはとても読みごたえがありました。重いですが、途中で投げ出したくならない質のものでした。
ありがとうございました。

投稿: tona | 2018年1月22日 (月) 13:12

★ポージィさま こんにちは。

私も加害者の親からの声は殆ど書かれたものがないように思えます。
本当に貴重な記録の本だと思いました。
15年以上もかかってまとめて大変な日々だったことでしょう。
そうですね。DNAは同じでも、人格は全然違うのですね。
親ですと血を分けた子供はそうとらえることが最初は出来ないわけですね。わが子がやるわけはないという思いにかなり長い間とらわれていました。それが精神を病んでいたということで納得したのです。でも精神を病んでいたなんて全然気が付かないのも親なのですね。
確かに単純に親の顔が見てみたいとは言い切れないものがあるようです。親に責任がある事件も多いですが。
ありがとうございました。

投稿: tona | 2018年1月22日 (月) 13:22

本格的に雪が積もりました。
tonaさんも咳き込み続いたんですね、同じくで苦しかったです!
風邪引くと長引くようになり嫌ですね。

犯人の母親は、艱難を耐えた末に気持ちの整理が少しついたのでしょうか。
2009年7月に、デンバー国際空港往復でコロラド・ロッキーマウンテンに登山しました。
現地でお世話になった日本人ご夫妻は、事件の傷が未だ癒えないと・・・
山はコロンバイン(西洋オダマキ)の宝庫で、それは美しい水色が溢れてましたが。
コロラドの州花と聞いて、複雑な心境でした。
保身のために銃犯罪が続発しているのに、賛成数が多いそうですね。
自然に恵まれたロハスな街が、実はアメリカの闇をあぶり出しているのです。
2009,7~8月のブログに、コロンバインを載せています。

投稿: だんだん | 2018年1月22日 (月) 16:31

私も神戸の酒鬼薔薇の名前を思い出しました。
ひっそりと岐阜に住んでいるという噂も
あります。声をひそめて暮らしているのに
この人はとても勇気があると思いました。

本名も聞いていますが、ここには書けません。
神戸の知人の家の近くです。神戸の夫の友人
なのですが、ひっそり引越しされたようです。
なんだか野次馬のようなコメントですね。

投稿: matsubara | 2018年1月22日 (月) 18:20

★だんだんさま

治りきらないうちに次のをもらってきて、またなかなか治らないのも年です。今度はずっと引きこもって完全に治したいです。
だんだんさんも早く治って元気になってくださいね。
デンバーの地をご存じなのですね。
私の教え子がデンバーにいます。
そのデンバーがこんな悲劇の場所だったとは、この間コロラドにちょっと入った時はすっかり忘れておりました。
この本を読んでいて、アメリカの高校生や大学生が出てくる映画があって、芯はしっかりしているのに、かなり乱れているなあ、映画の世界だけと思ったりしましたが、本当なのだとわかりました。アメリカで子供を生んで育てるのは日本人の多くの女性は困難を強いられるであろうと思ったことでした。
のちほど素敵なコロラドロッキーのコロンバインを見せていただきます。
ありがとうございました。

投稿: tona | 2018年1月22日 (月) 18:45

★matsubaraさま

酒鬼薔薇は本を出したそうですが、とても読む気になりませんでした。
我が家からバスで少し行ったところに彼が入っていた収監所があって、まだここにいて彼は何を考えているのだろうと思いました。
警察は本人をずっとマークしているのでしょうか。
親の気持ちも考えましたが、さぞかし大変だっただろうと思うのです。
ありがとうございました。

投稿: tona | 2018年1月22日 (月) 18:51

tonaさん、こんばんは~♪
この事件のことはよく覚えていますが、詳細については知りませんでした。
愛情をもって育てた我が子がこんな事件を起こして
どんなにショックを受けたことでしょう。
そのうえ世間から想像を絶するような非難を受け、
被害者には加害責任を引き受けて生きていかなければならない。
なんと壮絶な19年だったのでしょう。
あすればよかった、こうすればよかったと後悔することも沢山あるでしょうが、
物事はそんなに単純なものではないと読者にわかってもらうだけでも
意味があるような気がします。

投稿: hiro | 2018年1月22日 (月) 19:35

★hiroさま こんばんは♪

さすがhiroさんお元気だからお風邪も医者にもかからず治ってしまいましたね。
普通の風邪は治るのに何週間もかかります。
今日は急遽歯医者に2度も行く羽目になりまして、雪の中2度でしたせいか、なんとまた熱が出てしまいました。毎度のことでがっかりしないことにしています。
この本のお母さん、可哀そうで可哀そうで一緒に苦しみました。でも私は体験者でないので他人事ですよね。本当にお気の毒です。
しかし強さをお持ちなのですね。今は自殺予防のお仕事でたくさんの命を救っていらっしゃいます。
こういう子を持った人の子育ては他人が非難するよなうものではないということもわかりました。親に責任ありというのも随分ありますけれども。
私も教えられることが随分ありました。この方と同じ経験をされている方には是非読んで気持ちを少しでも軽くして生きて行ってほしいです。
ありがとうございました。

投稿: tona | 2018年1月22日 (月) 20:45

日本では20歳・18歳から選挙権もあり一人の立派な大人とみなされます。
親の責任も一応は成人までで、子供が罪を犯しても関係ないように思えますが
実際には親も巻き込まれて行きますね。

この事件は余りに強烈なので覚えていますが、親御さんの事までは全く知りませんでした。
これだけの事件を起こせば親御さんの苦労、
それがどの程度だったかは想像を絶した事でしょう。
現在の著者の方は自殺願望の人を防止する活動をしているるようなので
良かったです。

この本は借りたのですか?
もしお手元にあるなら読みたいので貸して頂けますか。

投稿: ラッシーママ | 2018年1月23日 (火) 14:14

★ラッシーママさま

本は図書館から借りました。すみません。
親になったからには一生ついて回るような感じですね。特に凶悪犯の場合は一緒に罪を償わなければと日夜その思いが続くのではと思います。
普通の親にとっては青天の霹靂、その様子が最初からずっと綴られていきます。
いろいろな苦がありますが、このような目に遭うということを自分に当てはめなかったから、それはそれは驚きの連続でした。
苦しみにも上には上があるものです。
しっかり対応してこの本を上梓した著者に頭が下がりました。
ありがとうございました。

投稿: tona | 2018年1月23日 (火) 16:43

読む勇気が出てくるかなあ。
親にどれだけの責任があるのか、有名人の子弟の不祥事のたびに繰り返される親の育て方論をやや否定的にみていました。
当事者になると、非難されるのもムシロ救いなのかもしれない、でも程度の問題かな。

投稿: 佐平次 | 2018年1月24日 (水) 10:16

★佐平次さま

私は寝るときには読みませんでした。怖くて眠れなかったり怖い夢を見そうだったからです。

凶悪事件ではありませんが、例えば三田佳子の二男などは長男と同じように育てられていると思われるのに、全然違う悪になりました。事件を起こししても月に70万円もお小遣いをあげるという甘やかしぶりが非難されました。ですから親を非難するとしたら、溺愛やお金で解決するということでしょうか。
乱射事件はまた全然違った性質の事件で、本人が親の前で見せなかった陰の部分を探し当てるのに、色々な専門家などの助言得たりしてやっとわかったりしています。家の中では精神を病んでいるのが見付けられなかったのですね。

投稿: tona | 2018年1月24日 (水) 16:10

凶悪な犯罪の加害者の親と言う特殊な立場
方が書いた本。
tonaさんのブログで紹介されなければ、
こんな本があるという事も知らなかったでしょう。
平穏無事に、穏やかに暮らしていたはずの著者が、
いきなり大量殺人の犯人の母となった。
同じ母親としてその苦しみは想像するだに恐ろしい事です。
非難を受け、絶望し、葛藤し、それでも加害責任を果たしていく。
読むのにエネルギー勇気のいる本ですね。

若い頃、アメリカの女子高校生のドキュメンタリーの本を読み衝撃を受けました。たぶん同年代。
普通の優しい家族に囲まれた高校生が、ちょっとしたきっかけでドラッグに嵌る。
止めようとしてもスッと友人からドラッグを
渡されたりで、普通の高校生の間に薬が蔓延している事実が衝撃的でした。
アメリカの若者が抱える闇が、どんどん膨れ上がって自殺願望=大量殺人と言う所まで行きついてしまったのでしょうか。
親の視点からの事件、恐いけれど読んでみたくなりました。

投稿: ☆銀河☆ | 2018年1月25日 (木) 14:36

★☆銀河☆さま

またアメリカの高校で同じよな銃乱射事件がありましたね。子供を学校に通わせるのも恐ろしいようなアメリカです。
確かに夜読むと悪夢を見そうな内容で昼間読みました。
アメリカの高校生生活が出てくる映画を何本も見ましたが、日本とかなり違うなと思いました。でもそれは映画の中だけだと思おうとした自分がいました。
しかし☆銀河☆さんがすでに若き頃読んでいらしたその時代にもうそのようなショッキングなアメリカだったのですね。
宗教の問題や人種差別など、まだ日本では問題化されていない問題もありますね。
少なくともわが子(クリスチャン系の中高一貫校)の学校環境で、その生活態度からは殆どの生徒が麻薬や犯罪とは関係なかったと今でも断定しています。
ああ、アメリカに生まれなくて良かったなんて卑怯な感想を述べたりしています。
筆者の勇気ある行動に感動です。アメリカでは強くないと親になれないし、強くなっていくのですね。
ありがとうございました。

投稿: tona | 2018年1月25日 (木) 15:52

こちらを読んで、是非読みたいと思っていたのでした。
しかし奈落の底に落とされて、文字通り地獄の苦しみを、御夫君と歯を食いしばって乗り越えてきたのであろうに
離婚されちゃったのですね。
そのことについては詳細は語られませんでしたね。

投稿: zooey | 2018年5月 2日 (水) 21:58

★zooeyさま

再びありがとうございました。
私が思いも及ばず書けなかったことを的確に書かれていらっしゃる、さすがzooeyさまです。
今も次々起こるこの類の事件、とうとうアメリカの高校生がスローガンを掲げて立ち上がりましたが、銃社会の恐ろしさは、解決まで程遠いし、解決は無理なのかと絶望になるほどです。
離婚されちゃったと言えば、先日の順天堂大学の赤ちゃん取り違え事件で、お母さんは離婚されちゃったのですよね。変だと思って大学に問い合わせたのに取り合ってもらえず。全くもって理不尽です。
そう、もう一つ「典子は今」のサリドマイドの典子さんのお母さんも離婚されちゃったのですね。

投稿: tona | 2018年5月 3日 (木) 09:24

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